下町の温泉街

蒲田温泉

「温泉街」というと、とかくきらびやかなネオンに包まれた歓楽街をイメージしてしまいがちだが、JR蒲田駅を降りるとそのイメージとは違うことに気付くだろう。ごく普通の駅前、商店街が広がっており、温泉街のイメージはどこにもない。本当に温泉などあるのかと不安になるが、駅前の交番、商店の主人などに尋ねれば、誰でも気さくに教えてくれる。地元の人々にはなくてはならないものとして、すっかり定着しているようだ。教えられた道順をたどって歩くことしばし。道は次第に閑静な住宅地―と言うよりは、下町―へと入っていく。おばあさんがちんまり座る駄菓子屋、ちょっと強面のおにいさんのいる材木屋、道端の盆栽、駆け回る子供達…。誰もが胸の裡に抱いている「下町」の原風景が、そこにはある。蒲田温泉は、その下町の最中、駅から20分ほど歩いた所に忽然と現れる。下町の景観の中では唐突な感もあるが、ライオンのマークの可愛い看板がほのぼのとしていて、意外としっくりしている。唐突な割りには違和感がないのが面白い。その看板をくぐると蒲田温泉の入り口があるが、まだ陽の高いうちから近所の老人達がちらほらと入っていくのも、下町風情を感じさせてくれなかなか良い。

名湯「美肌の湯」

美肌の湯

いかにも温泉的なロビー、番台ならぬフロントで料金を支払う。料金385円の他に、手ぶらセット700円(入浴料+貸タオル・石けん・シャンプー)、湯ったりセット1300円(手ぶらセット+貸浴衣)などがあり、思い立ったらすぐ行けるのが嬉しい。蒲田温泉には、低温湯(42度 )・高温湯(44・9度)・電気風呂・ミクロバス・高温サウナ・水風呂の6つの湯があり、順繰りに楽しめる。しかしなんといっても、目玉はこの温泉施設の名称でもある「蒲田温泉」。低温湯と高温湯にこの温泉があてられているが、「黒湯」の別名どおり、真黒の湯だ。湯につかる自分の肩が見えないほどの色の濃さだ。この蒲田温泉、もともとは、工業用水として掘られたものだった。それが、後に温泉として有効な成分を含んでいることが発見され、蒲田一帯で温泉利用が始まった。特長は、PH7・9のアルカリ泉質、弱苦味、無臭、黒色。効能は、高血圧、内蔵疾患、糖尿病、リウマチ、膝痛、腰痛、肩こりなど。特に関節炎には効果大。また、アルカリ泉質は、酸性化した肌を中性化し、古くなった角質をおとし肌をスベスベにする効能がある。このことから、蒲田温泉は「美肌の湯」として名湯の呼び声が高い。この蒲田温泉の効能を存分に生かすための入浴方法が研究され、脱衣所に掲げてある。黒湯につかるのは、その黒さ故に、最初は抵抗感があるが、つかってみると、そのどっしりとした湯触りにまず驚く。体の芯から温まってくるのが実感としてわかるほど重厚な湯だ。しばらく入っていると、次第に、心なしか肌がスベスベしてくるような気がする。名湯の看板に偽りなし、の湯である。真黒な蒲田温泉、ミクロバス、サウナを、合間合間に水風呂を折り込みながら、存分に堪能すれば、身も心もすっかり癒されること請け合いだ。

くつろぎの大宴会場

大宴会場

風呂からあがったら、是非とも2階に足を運びたい。蒲田温泉の2階は大宴会場となっており、常時無料開放されている。フロントに一声かけておけば、宴会場で一休みした後、何度でも浴場に戻れるシステムだ。実際、宴会場には、浴衣姿の入浴客が入れ替わり立ち替わり休みに来ては、再び浴場へと戻っていく。宴会場には、カラオケ施設、レストランが併設されているので、ただ休むのではなく、生ビールをキュッと一杯やってのんびりすることも出来るし、気が向いたらカラオケで楽しむのもいい。「ここには週に2回はみんなで来るねぇ」と地元のカラオケ同好会『空桶蒲田』の会員・井上幸夫さん(六六)。のんびり湯につかった後、ビールを飲みながらみんなでカラオケを歌うのは、なによりの楽しみだという。この日も『空桶蒲田』の面々がカラオケに興じていた。「料金は安いけど、ほんとの温泉みたいでしょ。ちょっとした休暇みたいで楽しいんだ」と井上さんは相好をくずす。ちなみに井上さんの持ち歌は「さざんかの宿」と「りんご追分」だそうである。レストランの方もメニューが充実している。ビール・日本酒(越乃雪中、久保田霞など銘酒揃い)などのアルコール類や各種ソフトドリンク、おつまみ、軽食が揃えられている。中でもおススメは、名物「温泉釜めし」だ。無農薬で育てられ、厳選された最高級新潟産コシヒカリをじっくり炊き上げる。注文を受けてから炊き始めるので30分ほどかかるが、絶妙の味わい。是非一度ご賞味頂きたい。五目温泉釜めし、冷奴、香の物、味噌汁付きで780円。他にもシャケ釜めし、カニ釜めしなどもある。全てお土産として持ち帰りも出来る。宴会場の賑やかさが苦手な人は、食事を済ませた後、ムービーレストルームでくつろぐのもいいかもしれない。別料金がかかるが、常時ビデオ上映をしている静かな部屋でまったりと過ごせる。眠っている人もちらほらいて、温泉ならではのくつろぎかたと言えるだろう。

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